(まとめ)「訴訟の心絵ー円滑な訴訟進行のためにー」弁護士 中村 直人
「訴訟の心絵ー円滑な訴訟進行のためにー」弁護士 中村 直人
https://www.amazon.co.jp/訴訟の心得-中村直人/dp/4502134511
一言:実務上の注意点を述べた本。非常に面白い
訴訟の経験が少ない弁護士や、企業の中で訴訟を担当する部門の人たちのために、実務上気をつけたほうがいいことを述べたものである。
と書いてあるが、それに限られないと思う。非常に参考になる。
まとめ
第1章 訴訟の見立て
1 その訴訟は勝てるのか
- 訴訟案件の依頼を受けたら、最初に訴訟の見込みを見極める(その後の行動決定に資する)
2 裁判官の心証形成の段取り
(1)原則
動かしがたい事実⇨ストーリーのチェック⇨結論
(2)理由
(3)抽象的思索からプログラマティックへ
(4)処分証書等
- 特に企業法務の世界では契約書に対する記名押印や領収書などは、組織内のその意思決定手順あるいは作成手順も確立されており、それがあれば原則そこに記載されたとおりの意思表示や法律事実があったのだと判断してよい。
- しばしば「契約書の文言をよく読まずに記名押印したから無効だ」という抗弁が出されることがあるが、そのような抗弁も原則として認められない(最高裁昭和38.7.30)
- 処分証書等に基づく認定は、その文章の記載通りとするのが原則。「ここには○○と記載したが、✖︎✖︎の趣旨だった」等の抗弁は原則として成り立たない
(5)例外
(6)書証と人証・主張の重要性
- 処分証書等は、その日付のその記載内容の契約書が来まい押印されたというだけで、それがそうしてなされたのか、どういう経緯でなされたのかなどは証明していない。
- 人証は、事案の経過を述べるものであって、これによって全体としてのストーリーの生合成を検証できる。書証を有機的につなげる役割がある。人の行動は、すべて原因と結果、動機と行動からなっている。由縁のない行動はない。係争になる前は、特にそうである(係争になってからは、意図的な行動が生じるから留意が必要)
3 「証明」とはその程度のことか
(1)高度の蓋然性
(2)証明度の度合いー数値的な表現について
- 多くの論者は、70%から80%が立証のレベル
- 多くの事件では、裁判官は「証明できず(ノンリケット)」という判断にはなっておらず、全体としてこれで間違いなかろうという心証に至っているのではないかと思われる。確率論的な意味合いで、70%や80%でいいと思っているわけではないように思われる
- ほとんどの場合裁判官は「ある」か「ない」かの心証を抱くと述べている。裁判官が立証責任でことを解決していることは少ない
(3)自然科学的な立証事項の場合の特殊性
(4)損害認定の場合の特殊性
(5)政策的な証明度の引き下げ
(6)主要な争点とそれ以外の事実での違い
(7)証拠外の事情による影響
4 判決の拘束性
- 民集(最高度の先例拘束性)>裁判集>法律雑誌(判例時報・判例タイムズ)
- 実務家は、高裁判決や地裁判決を見つけると、それで大きな手がかりをつかんだと思ってホッとしてしまうが、裁判官は下級審判決にはほとんどそれに倣うという意識がない。その判事内容が説得的な理由になっていれば、それと同じ意見となることはあるが、説得的でない、あるいはケースが違うと見れば、全く従わない。
- 下級審判決に過剰な依存をすることには注意が必要
5 大企業の訴訟ルール
- 裁判官の法律解釈の論拠が、官公庁の解釈などにあまり左右されず、条文の文言や元々の立法趣旨などに大きく依拠していることがわかる。我々実務家的には、所管官庁の解釈は絶対でのとは、全く異なる
6 訴訟の類型
- (企業間)紛争の争点は、法律の解釈か、あるいは過失、正当事由、欠陥等の規範的要件のあてはめにあることが多い。自分に有利になる間接事実を探し出す争いになる
- (企業・一般人)動かしがたい事実のプロセスや、間接事実の積み重ねといった従来型訴訟の技術が役に立つ
- (会社・株主)会社と株主という関係が切れない以上、対立関係が永続ていに続くことがある。デフェンスサイドから見れば、この種の訴訟の場合には、なるべく少ない訴訟で勝つことが重要になる(紛争誘発防止)
7 調査
(1)関係書類の読み込み
(2)法律・専門知識の調査
- 法律的に論点となり得るところに関しては、凡そこの世に存在するすべての法律文献、判例を探す。法律文献は、一番新しい文献を探し出すと、そこに飲用されている諸文献を見ることで、芋づる方式に文献を探し出せる。したがって、最新の文献を知っておくことが重要。
- そのために、日常、重要な基本書、法律雑誌等を見ておく他、「法律時報」に掲載されている文献情報を毎号確認して、誰がいかなる文献を執筆しているかチェックし、重要そうな論文は写しを入手してジャンル別に整理しておくことも重要。
- キーワード検索では、自分が思いついた視点しか検索できないが、判例集を隅から読み始めると、自分では思いつかない論点で争った事例などが見つかる。愚直に時間をかけ、むやみに広い範囲を調べることがアイデアの湧出源となる。
- 判例については、日常、判例タイムズや判例時報、金融・商事判例などの判例雑誌を毎号ヘッドラインだけでも読んでおくことで、そのような判決があったことが頭の中に残り、実際の事件が来た時思い出すことができる
- 大きな書店や図書館に行って、その関係の書棚を全般的に見渡していると、新しい視点を見つけ出すことがある
- 要するに初期調査は、ピンポイントの論点ではなく、漠然と広範囲に無駄な調査をすることが重要
- 調査の体制であるが、複数の弁護士で担当する時、統括する弁護士が、論点ごとにここの弁護士に分担して調査させる方法があるが、それは望ましくない(∵全体像の把握ができないので、あたらいいアイデアが出ない。自分で全体を調査しないと戦略を練れない)
- 何より、若手弁護士が大事件を担当する時、個別論点の調査だけさせられたのでは、全く成長しない。自分で調査をし、戦略のアイデアを出すという発想で物事に取り組んで、初めて戦略的に主導力のある弁護士に育つことができる
(3)関係者の事情聴取
- 話を伺うときは、誰の責任かという話になるような指摘や意見は絶対に控える。人は、自分を理解してくれる人には、しっかり話をしたいと思うが、自分を理解していない、あるいは自分に対して敵対的・攻撃的な人には、進んで話などしない
- 事情を聞く目的は、事実関係で必要な事実を知ることであるが、それだけではなく、関係者からの信頼を得ることも必要。「あ、この弁護士はここまで資料を読み込んでるのか」とか「この弁護士は力量があるな」とかそう思っていただけると、機微にわたるお話も伺うことができる
- 専門的なことに関しては、躊躇なく、素人として質問をする。知ったかぶりをしてはいけない。なぜなら、弁護士はその後、裁判官を説得する立場になるのであるが、裁判官も専門的な知識は持っていない。中学生レベルで話を伺うのが良い
(4)鑑定意見書の頂き方
8 ストーリーの発見
(1)ストーリーを見つけること
- 法律家は、しばしば法律の定める要件事実を念頭に、それを当てはめる事実を拾い出す、という作業をする、これではダメである。まず、法律論とは別に、すとーr−があるのである。その中で、要件事実にあてはめる事実が拾われてき、そうすると事件が生きたストーリーとなり、裁判官の実感も湧くし、迫真性も湧いてくる。だから、ストーリーを発見することがもっとも重要な柱となる
(2)敵のストーリーも見極めること
9 難しい事件の対応
10 方針の立て方
- 企業間訴訟の場合、手持ちの証拠で勝てるかどうかは重要である。どこかに文書提出命令をかければ何か証拠が出てきて何とかなるかもしれないとか、相手方が何か証拠を持っているかもしれないとか、そういう自分が持っていない証拠に依存する訴訟は基本的にやめるべき
- 当方側に不利な事実があったとして、だからと言って嘘をつくという方針はありえない(暴露されると弁護士生命も終わる)
- 事実と間違ったことを言うと、穴におちる
11 顧客への説明
- 顧客に見通しを説明するときには、何が要件事実で、いかなる証拠があり、裁判所の判断基準は何で、それを辿っていけば、この点は立証できそうだが、この点の立証は難しいとか、必然的に結論に至るのである。きちんと具体的な理由を説明すること
- 正直であることが楽しい訴訟への第一歩
第2章 主張
1 一般的な注意事項
- (一本道)準備書面は一本道のフローチャートで書くのが良い。「後述のように」とか、「前述のように」とか、枝分かれしたり、注に飛んだり、あっちに行ったりこっちに行ったりでは読みにくい。
- (長い書面)今、裁判官からもっとも評判が悪いのが、長すぎる書面である。意味のない文章で長くなっている。裁判官に理解していただくためには、簡潔であることが一番。一見して「なるほど」というのが一番。筆者の30年の経験の中でも、長くて30頁あれば書けると思われる。数百頁の書面を見ても、筆者ならその10分の1で書くと思うものばかりである
- (一文の長さ)一文の長さも、短い方が理解しやすい。
- (活字の装飾)過剰な装飾は、目障りである。生の事実を淡々と述べればいいのであって、演出に傾斜しすぎると逆効果である
- (罵詈雑言)裁判官にとって必要なのは、生の事実、すなわち主要事実t間接事実だけ。裁判官からの評価を下げるだけ
- (専門的な説明)このような専門的な経験そくに関わる説明の準備書面は、他の主張とは別の独立の準備書面にすべきである。しかも主観的な意見を交えず、客観的かつ中立性に淡々と述べることが重要
- (形式的なこと)「準備書面○」という表題の後に、「〜について」などと、何が書いてあるか一目でわかる副タイトルを書いておくと、後で裁判官が読み返すときに検索しやすい。目次は長い文章になったときには必要。グラフなどの図を利用することも良い。時系列の票を作成して添付
2 認否を忘れないこと
- 裁判官からすれば、認否をしてもらうことは何よりもっとも重要
3 求釈明
- 企業法務の弁護士には、求釈明を多用する弁護士が多いように感じる。交渉戦術として、相手方の主張を想起に明らかにさせ、かつ固定化させて動けなくしてしまうことは上手いやり方と思われるであろう。確かにそういう一面もある
- 訴訟を提起する側からすれば、相手方に対して求釈明するようではいけない。自己の主張で完結して、それで勝てなければ訴訟など提起すべきでなかろう
4 訴状
- 勝訴の確信を持っているならば、必要な実主張と証拠を全部出し切って、被告の反論の余地がないように整えてしまうのがいい。事実主張の出し惜しみとか、証拠の出し惜しみ、法律構成の曖昧化(今後の変化の余地も残す)などはしない。迅速に勝つことを目指す。裁判所も、そういう訴状を見れば、その瞬間に大体の心証をつけんでくれるだろう
5 答弁書
- 認否を書くことが多い。しかし事実関係に大きな争いがあり、そもそも原告が主張するような経緯では全くないというような主張をする場合には、認否より先に、被告側の主張するストーリーや経緯を述べてしまう方が良い(裁判官に本当のストーリーを理解してもらう)
- 相手が明確な訴状を書いてこない場合、すなわち情報を持っていないケースや法律構成が難しい事件などの場合には、そこがまさに突きどころである。訴状でも明確な主張ができないことが、事件の筋を表している
6 準備書面
- (難しい事件)迫力のある準備書面を書くには、自分自身がどうしてこちらが正義というのか、心の底から確認する必要がある。そのためには記録を隅から隅まで読むことが第一である。その上で、なぜこちらが正義なのかというストーリーを明確に構築すること
- 書き始めたら、他の仕事を途中に挟んではいけない。ちょこちょこ時間を見て、細々書きつなぐなどというのは、最もいけない。人を説得する態度ではない
- (短い反論)長文の相手方準備書面に対する反論は、簡単なもので良い。大体長文の主張というのは、明確な価値の根拠がないから誤魔化していることが多い。裁判官に鮮やかな印象を残すことができるので、短い反論は有効
- (即座の反論)相手方が準備書面を出したら、即座に、期日前にその反論の準備書面を出してしまうという方法
- (時系列を述べる準備書面の書き方)主観的な表現を避け、かつ、一文一事実で書く。改行をこまめにし、また、項目をコマ買うに立てるとか、行数を欄外に記載するなどして、相手方が認否するに際して文章の特定をしやすいようにする。また主観的な評価を含む言葉は使用しない。主観的な評価を含む主張をされたら、それは相手方は否認することになってしまう。例えば、「AはBを〜〜と恫喝した」といえば相手方はそれを否認する。しかし、生の事実だけ淡々と「AはBにー〜と言った」と記載すれば、相手方は認める。裁判官にとって重要なのは、生の事実をしっかり認否してもらい、争いのない事実と争いのある事実を明確に区別することである。これは訴訟のマナーである。
- (期日直後に起案する)準備書面は期日直後に起案する。一番核心をついた書面をかける
7 間接事実の拾い方
- 感覚的に「これはこうに違いない」と人間は認識するが、それがどうしてそうなったのか具体的に言ってみろ、と言われると、それを言葉に顕出することは難しい。暗黙知の言語化である。これができると説得力のある最終準備書面がかける。また、最初からその間接事実を証明することをターゲットに立証活動ができる。自分が指摘した間接事実がそのまま判決文に採用されると一人前である。
第3章 証拠
1 証拠の選抜
必要な証拠は何かを考える視点
- 要件事実からアプローチする
- 訴訟になり、事案の経緯を時系列順に主張していく段階では、そこに出てくる事実を証する証拠を拾い出していくということになる(ストーリーの信頼性は重要)
- 証拠を出す範囲という視点も必要。
- 訴訟の終盤では、それまでに準備書面で主張した事実のうち、裁判官が判決で適時しそうな事実、すなわち間接事実や「本件の経緯」などで判示されそうな事実を全てピックアップし、それぞれに証拠があるかどうかを紐付けていく
- いの一番出だす証拠がある。あってあたり前の証拠やいの一番に出るはずの証拠が出てこない、というのは、それだけで裁判官の不信を買うことになる。こういう証拠は適時に出すこと
- 相手方が、探索的な訴訟を提起してきた倍には、極力提出する証拠は絞り込む
- 株主との紛争、内紛などは、可能な限り提出する証拠は絞り込む
2 各証拠の証明力
3 適時提出主義
4 書庫概説書の記載方法
- 書式自体の見方がわかりにういものは、書式自体に吹き出しをつけて、説明することが考えられる
第4章 期日
1 口頭弁論期日の目的
- 裁判官の心証を知ること
2 口頭弁論期日と獲得目標
3 弁論準備期日
- 口頭弁論より弁論準備のほうが準備が必要。しっかり記録を読み込み、何を質問されても回答できるように心の準備をしておくこと、あるいは裁判官がこちらの認識とは異なる心証を披露した時には、そこが違うこと及びその理由を明確に説明できるようにすること、そういう準備が必要で有る。裁判官はここで心証を取る
4 裁判官の指示には素直に従うべきか
5 期日報告書
- 企業訴訟では、毎回、期日報告書を書くことが当然。もちろん書面の鎮守ちゃ証拠の提出など、基礎的なことは全部書く。裁判官とのやりとりもできる限り逐語的に思い出して書く。「読み」の部分も書くべき
6 その他の留意事項
- 法廷では、機微な発言が必要になるから、躊躇したり他の弁護士と相談したりしないで、自分の判断で即座に行動する。主任弁護士は、当事者意識が圧倒的に必要で有る
第5章 証人尋問
1 総論
(1)証人の必要性と選択
- 実際に証人尋問が行われるのは、訴訟提起から1年後であったり、2年後であったり、さらにそれより先になることが有る。その場合、会社の従業員であれば、異動してしまったり、退社してしまう可能性がある。その証人の確保や、場合によっては記憶が鮮明なうちに陳述書を作成しておくなどあらかじめ手を打っておく必要
- 企業間訴訟の場合、基本的には当方側証人だけで自分たちの立証責任のある事実は立証できるようでなければならない。相手側証人や第三者証人に立証、引いては勝敗が依存するような事案は、通常は、企業は提訴すべきではない。また、相手方証人を申請するようでは、筋悪である。反対尋問では信用性の減殺はあっても、自分たちの要件事実の立証はできない。
(2)証人尋問の申請と尋問事項書の書き方
- 尋問事項書の記載は重要
- 主尋問は15分、20分あれば重要
(3)陳述書
- 時系列に矛盾がないか、それぞれの行動につき原因・結果の関係が整合しているかは絶対確認する。ストーリーで間違ったら、一巻の終わりである。弁護士が起案しても良いとは言っても、本人が使うはずのない言葉、例えば法律用語や準備書面と全く同じ言い回しなどを使用すると幻滅である。本人が知っているはずのない用語が出てくれば、それは弁護士が言わせただけであるし、それに対応する記憶も本人にないことが明らかである。その証人の立場に立って起案
2 主尋問
(1)主尋問の目的
- 裁判官の心証を得ること
- ポイントは、大きなストーリーの一貫性、整合性である。そこが揺らがなければ、裁判所の心証としては、合格である。原因と結果、動機と行動、その因果の流れが自然であるかどうかである。
(2)尋問事項書の作成
- 覚えないと回答できないような事項書は絶対に作ってはいけない
- (リハーサル)覚えようとするのは最悪である。台本を覚えるというスタンスになってしまうと、自分の記憶で回答するという意識が全くなくなってしまい、大失敗する原因になる。そのためには基本的に見せないのが一番である。さらには、尋問事項書の記載通りの回答が得られない場合、証人に向かって「この質問にはこう答えてください」などというのは論外である。自然に回答できないのであれば、それは回答が悪いのではなく、質問の仕方が悪いのである。弁護士が質問を変えるのである。証人は記憶にしたがって自然に回答していれば、そのまま自然い終わるというのが一番良い。
- 118頁以降参照(証人尋問の諸注意)
(7)反対尋問のとき
- 裁判官は、大きなストーリーの中で、矛盾がないか、不自然なこと、経験則に反することがないかということを見ている
- 意義を言うとすれば、誤導尋問で証人が騙されそうな時とか、反対尋問が重複や議論を吹っかける質問ばかりであまりに時間の無駄で退屈した時くらいである
3 相手方証人に対する反対尋問
第6章 判決対応
1 判決文の読み方
2 控訴、上告の有無の決定とその基準
3 手続
第7章 企業訴訟関連の判決とその特徴
1 南都銀行事件判決
- 判決文を見て妙と思ったら、訴訟記録まで見に行かないといけない
3 UFJ事件
4 ブルドック地裁高裁
5 大和銀行事件
6 住友商事決議取消請求事件
第8章 和解
楽しい訴訟ー結びに変えて